うつ病とは?
【うつ病ってどんなイメージ?】
うつ病というとどんなイメージがあるでしょうか?深い悲しみに浸っていて、また意欲がなくて、元気がなくて、落ち込んでいて。憂鬱な気分が続いて、仕事を休まなければいけなくなる病気と考える人が多いと思います。
では、うつ病に自分がなったらと想像すると、どんな気持ちになるでしょうか?
もし自分がそうなったら、『自分は大変な病気になってしまった』、『メンタルの弱い人』になってしまった。情けない、恥ずかしい…。多くの否定的な思いが出てくる。診察でうつ病のクライエントには沢山会います。自分が新しく診察する方の半分以上のかたはうつ病の状態となっていますが、『うつ病』と診断できることを伝えると、こんな反応をされる方は多いです。
うつ病は、様々な調査によると10~20%の人が、一生の中で一度は体験することがわかっています。ある意味とてもよく起こる状態ですが、それに対するイメージとして『人生における異質なこと』、あるとおかしい『病気』だという印象を多くの方が持たれていると思います。そして、この意識が、うつ病になった人をさらに、自分は恥ずかしい人だと追い詰めて、更に苦しめていくことにもなります。
このように自分の中で起きてきた出来事に対して、強い恥を感じていると、そのことに向き合うことはできなくなりますし回復へ向けての大きな問題となります。わたしがクライエントにどのようにうつ病を説明しているかお伝えします。読んでいただいて、少し気持ちが楽になってもらえればと思います。
【うつ病が起きる理由は?】
あえて簡単にお伝えしますが、『うつ病とは、脳が疲労したときにおきてくる症状に対してつけている呼び方』だと、そう理解してみてください。
意欲がわかず、何するにも面倒で、それまで興味持っていたことへの興味もわかず、ただゴロゴロしていたい。また何かしようとすると不安な気持ちが出てくる。うつ病で悩む方は、こんな体験をされたのではないでしょうか。
風邪をひいて、熱が下がった二日目の時のことを思い出してみてください。これと同じような症状が起きていることに気づくと思います。
また徹夜明けの昼を思い出してください。前日までは今日しようと思っていたこといろいろ計画していても、何もする気がわかず、ひたすら面倒で寝ていたいとなっていませんですか?
二日酔いの朝はどうですか?どれも、この意欲がなく何するのも面倒で、ゴロゴロして寝ていたくて、少し動くと不安な感じがあって…どれも似た症状があります。
では、なぜこのような症状が起こるのでしょうか?風邪をひくとウィルスが血液に乗って体中に回ります。脳もそのダメージを受けていきます。寝不足では脳がやはり疲労していきます。二日酔いではアルコールの影響でやはり脳がダメージを受けていきます。すべてに共通しているのは脳がダメージを受けて疲労しているということです。
ではダメージを受けた脳はどうしたら回復するでしょうか?筋肉が疲労して動きが鈍くなってきた時は、体を休ませることをして回復を待ちますね。脳も同じです、脳を休ませる必要があります。もし、そのようなときにあなたが元気いっぱいで、あれこれやりたいことをやっていたら、やらねばならないことに集中して、それをこなしていたら?脳は休まりますか?つまり、やる気がなく、不安があって、何もしたくない気分というのは、脳を休ませるためにはとても役立つ状態なのです。通常この状態になれば、休息をとるはずですから。
そして脳にとって何よりも必要な休息は眠ることです。体は動かないでいれば休めますが、脳は起きているあいだ常に働き続けています。睡眠だけが脳にとっては休息となるのです。ですから、うつ病からの回復にはまず睡眠が必要となるのです(詳しくは【うつ病の回復と再発】に)
うつ病というのは、脳が疲れた時に起こる、脳の反応。自分を守るために起きてくる反応だということを理解してもらいます。スポーツ選手が、試合の後、体を休ませていくのと同じです。様々な問題の処理(人間関係、経済問題、仕事や勉強でしなければならない処理等々)に追われ続け、疲れ切った脳が、あなたにお願いだから休んでとのメッセージが、このうつ病の症状なのです。
しかし、脳(体)があなたにそうもとめていても、『いや、ここで休むわけにはいかない』『自分が休んだら迷惑かける』と考えては、休ませないようにします。自分は休みたくても上司から、休むなと言われていて、それを断ることができないこともあるかもしれません。このようにして、自分の体が求めている脳の休息に対して、自分がNOと抵抗していくことで、症状はさらにこじれていきます。自分の体がもとめていることと、自分の意思が反対になってしまうと、そこに軋轢がうまれて、焦りがでてきます。不安はさらにつよまり、眠れなくもなるでしょう。そして、どうしようもないくらいに疲労したところまできて、はじめてもう駄目だとギブアップしていく、その状態が『うつ病』となるのです。
ですから、うつ病というのは、おかしな病気でも、恥ずかしいことでもなく、ただ脳が疲労しているけど、そこから回復できずにもがいている状態。そのことを自分にメッセージとして伝えてくれているために起きている、自分を守るための反応なんだと考えてもらっています。
そして、回復には睡眠が必要だということを理解してもらって、すきなだけ眠れるよう環境の調節を行ってもらうことと、あわせて『休んで申し訳ない、情けない』といった自分を責める気持ちがあるならば(たいていは起きてきます)、そのことについても何が起きているのかを説明していきます。
【自分のせい(自責の念)が、生まれる理由は?】
なぜ、うつ病になった自分のことを、皆に申し訳ない、情けないと責めるのでしょうか?
これだけ疲れ切っている自分を、なぜさらに追い込むようなことを考えるのでしょうか?
これにも理由があります。自分のせいだとうつ病になった人が考えてしまうのは、それはその人がネガティブだからとか、ダメだから、弱いからではありません。ある意味健全で、その出来事に対してどう対処していくかをきちんと考えているからこそ起きています。
人は受け入れがたいことを体験したときに、この自分のせいだという考えが生まれてきます。
虐めにあっていた子は、もし自分がもっと強かったら、もっと人気があったら、あんな風にはならなかったのにと自分を責めます。犯罪被害にあった人も、もし私があんな時間、あんな暗い道を通らなかったら、もし私に勇気があって『やめて!』と声を挙げられていたら、私の足が固まらないで、全力で逃げることができていたら…。
こんな風に、酷い目にあった人ほど、自分を責めていくことが続きます。
でも、いじめにあった子や、犯罪被害にあった方に、本当に責任があるでしょうか?
そんなことはないと思います。しかし、酷い目にあった人ほど、自分のせいと信じていきます。
それは、もし自分が〇〇だったら、また◇◇しなかったら、私はあんな目に会わなかったはずだと、その出来事でひどい目にあった体験を心の中でなかったことにできるからです。つまり、受け止められない出来事を回避するため、自分のせいだという考えはとても有利に働いてくれるのです。
うつ病を体験した方は、自分の人生の中であんなことは体験したくなかったと強く思いますし、そのため、自然と自責の念が生まれてくるわけです。これもある意味自分を守るために起きてくる自然な反応の一つです。
自責の念はこのように、その人が体験した苦しいことを避けるためには有効ですが、その出来事から時間がったっても、ずっとその信念が心に残ると、それは回復への大きな妨げとなります。この自責の念に対して、自分が作っている考えなんだと気づけることが、回復へ向けた大きな一歩であり、それができて初めて本当の休息(脳の休息)がとれるようになります。