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うつ病の回復と再発

うつ病の再発

【うつ病の再発】

 

 うつ病は多くの人がかかる珍しい病気ではないため、『こころの風邪』と例えられることがありました。

しかし、最近はうつ病になると長期化や再発するなど、簡単に治ると言い切れないところがあるため『風邪ではなく肺炎に例えるほうが良い』という治療者もいます。うつ病の最大の問題は、この長期化や再発することです。

 うつ病に初めてかかった人(人生の中のどこかで、1割~2割の人はうつ病とよばれる状態になります)の半数が1年以内の再発を経験されています。また一度再発した方は、さらに7~8割の方が3回目の発症を、3回うつ病になった人の9割は4回目の再発があることが分かっています。

 また初回のうつ病体験から半数の方が再発しますが、その再発する時期は初回のうつ病体験から半年~1年以内が最も多い再発の時期となります。

 

 薬物療法中心で治療を行うときに、薬を辞める時期を初回発症から9カ月~12か月くらいの間とすることが多いのは、抗うつ剤の治療に再発を抑える働きを期待しているからです。その時期の再発を抑えることで、統計的にはずっと再発しないでいられる可能性が高くなると考えてのことです。

 

 しかし、薬を続けることで本当にうつ病は治っているのでしょうか?うつ病とは薬を続けないと再発する、なにか得体のしれない病気(*1)なのでしょうか?

 まず大切なこととして、うつ病が再発するには原因があるということです。もし薬が再発を抑えているのだとしたら、その再発する原因のなにかを薬が上手くコントロールしているからでしょう。問題は、その何が再発をおこしているか、また何が真の回復をさまたげているかです。

 

【再発するとき医師が考えること】

うつ病の再発を繰り返す場合には、診断では次の三つの状態を区別します。

①       反復性うつ病性障害

②       持続性気分障害

③       双極性障害

 

 完全に三つに分かれるというよりは、①が9割、②が1割とか、②に③の部分が重なってきたため、複雑になっているとか、完全にどれか一つの病名で割り切れるものでもありません。わたしは個人的には、そのクライエントの悩みに対してクライエント自身が自分をどう守るかの反応が、症状となっていると見ることが多いので、あまり診断にこだわらないのですが、この三つに分けていくことは治療上のメリットを感じます。

 

 双極性障害を、うつ病の繰り返しと違う病気だとわけていること。(【双極性障害】のところで解説予定)

 うつ状態の原因となっていることについて、最近のことであるのか、幼少期からのことであるのか、

 その問題はどのように解決されてきたのか、解決されないまま先送りとなっていたのか等の整理に役立ちます。

 

 それぞれ診断基準がありますが、ここではどんな方に、このような診断名をつけるのかを簡単に説明します。

 

 ① 反復性うつ病性障害:『うつ病』が単独で繰り返される場合。

 

・特に問題なくすごしてきた方が、仕事が忙しくなり、なんとかしようとするも処理が追い付かず、うつ病となり休職。三か月休んで復職するが、仕事の忙しさは変わらず再発。(これはその人の問題というよりも、強いストレスを与え続けている環境に問題があっての再発)

・同じような状態でうつ病になった方が、職場環境を調整してもらい負荷を軽くすることで、復職後の仕事は順調に続けていたが異動があり、そこでも本来の力を発揮していたが、部下がミスをしたことで様々な状況をきちんと把握しなければと考えて、完璧なコントロールを目指している中で、再発。(その状況の変化に対して過剰な防衛反応を起こしてしまっての再発)

 

 ② 持続性気分障害:少なくとも二年以上続く慢性的な軽度~中等度のうつ状態。

・中高時代から何となく、自責的、抑うつ的。友達はいるが、あまり自分の悩んでいることを伝えたことはなく、どこか自分に悩みがあることへの引け目を感じていた。受験や就活で失敗。その後、仕事に就いたが、…どこか、自分には価値がないなという感じた状態が続いている。

 うつ病が続いているというよりは、もやもやがずっと続いている。時々、この状態に単発のうつ病が加わることもある。(うつ病の原因は幼少期からの親との関係含んだ家庭環境や人間関係の問題から起きている可能性ある)

 

 ③ 双極性障害(Ⅱ型)(*2):軽い躁状態とうつ状態を繰り返す、双極性障害の一つのタイプ。

・20代でひどいうつ病を体験したが、その後何度かうつ病が繰り返されている。うつから回復している時期は、気分は楽で悩ましく感じることもなく、意欲的活動的に仕事も趣味のことも、交友関係も取り組んでいくが、いつもやりすぎる(というかやらないと気が済まない)。

 

 気分はよいが、友人から自分が出しゃばりすぎることで疎まれることもある。しかし、しばらくすると意欲が続かなくなり、趣味のこともあまり関心がなくなって、その時には後悔がでてきて、うつ病の再発となっていく。(うつ病の間の時期は、やや調子が高い状態がある。原因が気分のリズムを作る仕組みの部分にあるのではと想定している)

 

 大きく分けるとうつ病の再発する場合は、この3パターンになります。それぞれ、うつ病の原因、また再発の原因、またそれが回復しにくい原因があると考えています。それぞれの原因について、なにがおきているのか、またなにがおきていないのかを診療の中で見つけ、その解決をしていくことが治療では必要です。

ここでは、うつ病の再発の原因について簡単にまとめることとします。うつ病の最終章【うつ病とトラウマ】のところで治療については、お話しします。

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【うつ病の再発の原因】

 

 ① ストレス 

 四大ストレス(*3)不眠、過労、不安、孤独

 仕事環境、家庭環境、友人関係の問題、不眠、サポートのない環境。

 ②   薬の影響、ホルモンの影響など身体的な外的要因

・チャンピックス、ステロイド治療、レセルピン等薬物の副作用としてのうつ状態。
・排卵~月経までの期間におきる抑うつ(PMS、PMDD)

・効果あったうつ病治療薬の急な中断(*4)

・過敏性腸炎で腸内細菌の活性化の異常によるストレスホルモン用物質の影響

・その他様々な身体疾患(特に疼痛性疾患)や、精神疾患の合併症がある場合。

 など

 ③本人の受けとめかた等の心理的な問題や、ストレス状況に向き合う際に感じる身体感覚

 (この部分にトラウマとの関連があります)

【原因をどう解決するか】

 ①については、その状況を変えていくための行動が必要。仕事の問題であるなら上司や産業医との面談で、環境の改善をしてもらうことも必要になります。

 仕事の内容や時間の軽減も必要。転職も一つの解決法とはなります。

 家族問題を含んだ人間関係についても改善可能なことは改善を。

 改善が難しいときは、その問題から距離を取ることも必要。

 問題のある人間関係に対して十分距離を取ることが必要です。

 ②では、その問題となっている身体疾患や精神疾患について、きちんと治療をして改善させる必要があります。

 ①と②では、何が問題であるかは明確(客観的に状況がみえます)ですから、解決へ向けて取り組むことはそれが実現できるかどうかはあるにしても、難しくないと思います。

 問題は③の場合です。今起きている出来事、もしくは過去体験した出来事をどのように受け止めているか。

 クライエントがそのことを明かしてくれなければわかりません。

 クライエント自身もその自分の受け止め方がどうなっているかに気づいていないかもしれません。

 

 さらに、もしこの体験がその目の前の出来事とは直接関係のない、学生時代や幼少期の出来事と関連した、こころの反応パターンの癖からだとしたら、そのことを解決していくことは、とても困難だと思います。

 トラウマ心理治療を多く経験すると、どのような過去の出来事が今の状態にどのような影響を与えていくか、クライエントに起きていることを想像しながら、うつ病の再発原因をみつけやすくなっていきます。(*5)

 では、具体的にどのようなことが心の中に起きていて、うつ病の治療を難しくしているのか、再発を起こしていくのかについて、自分が経験してきた多くの再発例と、その方がどのようにして回復していったかをふまえて【うつ病とトラウマ】のところでお伝えします。

(*1)うつ病は『病気』ではなく『こころの状態』をしめした言葉ですと最初に説明しました。以前大学の認知行動療法の研究会に参加していた時に、大野裕先生から『うつ病という病気はない。うつ病は、ある心の状態を示した言葉でしかない』との話が出て、ある意味びっくりしたのと、また同時にほっとした自分がいました。

 

 うつ病をかかえたクライエントと向き合いながら、『うつ病』を見ていくと、このうつ病は病気でないという言葉はとてもよくわかる言葉でした。現在の精神科診断は、なぜこういった状態になったのかという病因論を一切排除して、状態像から病名分類をする立場を取っています。そのほうが世界中の医者や研究者が、情報共有しながら治療研究をすすめるのに役立つ部分があるからです。

 ただそのため、原因が何かをまったく考慮せずに診断名がつけられます。とくに『うつ病』については何が原因であろうと、二週間抑うつ的な気分が続いて、生活に障害があるなら『うつ病』としましょうとなっているので、いろんな原因で起きる『うつ病』を全て同じ病気としてしまいます。

 

 治療で本当に大切なことは、クライエントの『うつ病』の原因を明らかにして、その原因を解決すること。

 クライエントを回復しないようにしている原因をみつけて、それを解決すること。

 

 この二つが最も重要なはずです。大野先生のこの言葉は、自分がずっと感じていたことを言葉にしてもらえたように感じたのと、いまのうつ病診断・うつ病治療に対して大きな問いを投げかけてくれた言葉にも感じました。

このテーマは【うつ病と適応障害】のところでお話ししようと思います。(現在製作中)

(ただし、『うつ病は病気でない』ともいいきれない状態のかたとであうときもあります。それは何が原因か、治療者としてのわたしがまだつかめていないからだと思います。多くの治療者は、このような理由から『病気である』ことと、ただの『状態である』ことの間のどこかから、このうつ病を理解しているのだと思います)

 

(*2)双極性障害と、双極性障害Ⅱ型については、双極性障害のところで説明します。(現在製作中)

(*3)再発の四大ストレス。統合失調症の当事者研究の中で明らかになった、再発を起こす四大ストレスです。不眠、過労、不安、孤独、これが重なり合って起きていると、たとえ薬を飲み続けていても再発リスクが高くなることがわかっています。統合失調症に限らず、多くの精神疾患の再発要因にもなると思います。

(*4)抗うつ剤がなぜ、うつ病に聞くのか。再発を抑えているのか。このことについては、改めて【うつ病の薬物療法】について、まとめてお話ししたいと思います。(製作予定)

(*5)ただそれに過信すると、勝手に治療者の思い込みでクライエントの問題は、これが原因だと決めつけてしまうため治療は失敗してしまいます。

 きちんとクライエントに向き合って、クライエントの真の思いを導き出せること、それに気づけることが治療者としての力の見せ所の一つなのだと思います。

 

 うつ病の難治例に対して、以前ですとパーソナリティ障害があるからだ、最近ですと発達障害があるからだと、治療者の思い込みで、真の原因を見ないまま治療がつづいていて上手くいかないことが多い印象です。

 わたし自身の体験でも、トラウマの原因が何かを見る時に、母子関係だとの先入観から、クライエントが話していなかった大きな問題を見過ごして治療が上手くいかなくなったことを経験してもいます。思い込みを捨て、ただクライエントの言葉から真実を見つける態度が何よりも、治療者に必要な態度なのだと感じています。

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