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うつ病の回復と再発

うつ病の回復

【うつ病の回復】

 うつ病は、脳の疲労と説明しました。回復には脳の疲労が回復するまでの時間が必要です。そして、それには十分睡眠をとることが必要です。

 

 うつ病からの回復には、三つの時期があると考えています。

 

 ① 一つ目の時期は、ひたすら眠ってもらう時期。仕事や、家事、学業など社会的役割から解放できるのであればそうしてもらい、好きなだけ眠っていてもらうように伝えます。

 

 通常これら仕事や、家事、学業がこなせなくなってきているはずですから、いったんお休みを取りましょう。ただストレスの原因が、家族や友人関係の問題等、仕事以外のことが悩みとなっている場合、または経済不安が強い場合、仕事に行っていたほうがまだ安心を感じるという方もいます。具体的にどのような環境が、クライエントにとって心身共に休めるかについては、状況によって判断していきます。

 まずは昼でも夜でも、いつでも良いので、寝たいだけ寝てもらいます。飽きるまで眠ってもらいます。風邪ひいて休んでいる二日目、熱は下がったけど、ひたすら寝ている。食事するのも面倒で、トイレだけ行って、水飲んだら、また布団に戻って寝る。そんなふうに寝たいだけ、ひたすら眠ってもらいます。

 それができると不安緊張が徐々に抜けて、それまで緊張のために自覚できずにいた体の疲れがどっと出てきます。

 

 あまりに不安・緊張が強く、ストレスとなる状況から解放されても十分な睡眠が取れていけないようであれば、薬物療法の利用なども役立ちます。

 

 ② 二つ目の時期は、飽きるまで寝ていると、意欲がすこしずつ回復する時期に入ります。〇〇食べたいな、ちょっとテレビ見てみたいな、好きなことへの関心が戻ってきます。『〇〇したいな』と、してみたいことが出てきます。

 

 この時期から徐々に活動を取り戻していく時期に入りますが、エネルギーはまだ乏しいので、ちょっと行動するだけで、どっと疲れが出ると思います。少しやっては疲れて、少しやっては疲れて。でも、このリズムでやりすぎなければ体力は徐々に回復します。

 自分の調子が20%でしたら、30%のことをするだけで負担になります。体力が20%でしたら15%のことまでにして、少し物足りない感じで終わりましょう。徐々にエネルギーの蓄えができて、数日たつごとに20%が、30、40とふえていきますから。

 最初はテレビ見るのも疲れていたのが、天気予報をみたり、ニュースを聞いたり…また音楽を聴いたり、ベランダの花の世話のことを考えたり…徐々に回復していきます。

 この時期に『したいこと』ではなく、『しなければならないこと』をやりだすと、すぐに疲れて、一つ目の睡眠を十分取る時期に逆戻りしてしまうので、したいことだけを意識して、この時期を過ごしましょう。

 

 ③ 第三の時期。体力がかなり回復して仕事以外の日常生活がこなせるようになってきたら、リハビリテーションの時期です。

 

 この時期は積極的に運動をするなどして、体力の回復に努めます。仕事をされている方なら、朝起きる時間を仕事に行っていた時と同じ時間に起きられるようにしていきます。

 そして通勤していた時間には外出して散歩するなど、徐々に生活のリズムと体力を取り戻していく時期です。

 そして仕事や社会活動の再開。

 その時には、どのようにして仕事に戻るとよいか上司と相談もしていきます。

 産業医面談でそれを決めていく場合もあります。

 職場環境に問題があった時は、その調整をしていくことになります。

 また、仕事の時間など負荷が強かったのであれば、時短勤務からはじめて、慣れたら時間を徐々に増やすというやり方も良く行います。

 そして、十分に時間をかけて元に戻っていくのです。疲れの程度の大小にもよりますが、ほとんどの方は、2か月から3か月で仕事に戻っていきます。

 

 1か月以内ですと、やや復帰が早いときがあります。もどってはみても、すぐ疲れてしまい、疲れが抜けずに再度休職となるリスクもあるので、休息を取る期間は十分に担当医との相談をしてみてください。

 

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【回復の妨げとなること】

 ① 不安、焦り。

 睡眠を沢山とってもらう一つ目の時期ですが、不安や焦りが睡眠への妨げとなります。心身は疲れきっているにもかかわらず、浅い睡眠で、何とか眠れてもすぐに目が覚めてしまう。これは、まだ体が緊張から解放されていないからです。

 

 もし、あなたがライオンと同じ折の中で、寝るとしましょう。ライオンは鎖につながれていますからあなたは安全です。あなたはそこで、ぐっすり眠れるでしょうか?

 ほとんどの人は眠れないはずです。うとうとするたびに、はっと目が覚める。おそらくそんな繰り返しで一睡もできないのではないでしょうか。この状況で、朝までゆっくり眠ることができたとなれば、ある意味そのほうが異常なことに思います。

 つまり、強い脅威、心配事があれば、それに対して最善の安全策を取ろうと神経を最大限に活性化させて対処しようとします。つまり、眠ること等できないわけです。

 

 うつ病の時も、同じように、心にとめる何らかの不安、心配事に対して、心身の緊張が強くあり、自分を守るために、あなたを覚醒させ、危険に備えるよう神経系は興奮を続けています。

 もし心配事が、日に日に差し迫った状況にあって、あなたが危険な状況に追いやられるのであれば、まずその対策をしなければならないでしょう。

 

 しかし、多くの場合、その問題は、その時期に起きてきた慢性化してきた問題。

 それまでに十分考え行動をとってみても解決策がなくあきらめている問題。

 つまり、その日の夜、寝る段階になって、何か考え行動することで解決できるようなものではないことが多いと思います。

 

 心配事はあるにしても、それを考えるのは別の時として、今は眠ることだけに集中しましょう。つまり眠るのに役立つこと以外は、いったん心から外してしまいましょう。

 

 『その問題について、あなたは十分に考えてきたし、行動もしてきたし、頼ってよい人に相談もしてきたと思います。まだまだ足りないという気持ちもあるでしょう、でも、まずは一週間、そのことの解決は先延ばしにして、今は疲れをとってみませんか?頭の疲労がとれれば、もっと楽に対処できると思いますよ。私も協力しますから。』 

 

 うつ病の状態になると視野が狭くなり(*)他の解決方法があることへ気づくことができなくなります

 人とのつながりも減っていき、孤立へ向かってしまいます。かならず、一緒に解決していけること、そのことへの保証を与えていくことも、この時期は重要です。

 どのようにしたら、眠れるようになるかについては『回復へのヒント』>『眠れない』で説明します。現在製作中です。

 

 ② 自責の念

 不安や焦りを、考えないようにして遠ざけたとしても、もう一つの問題は、『自分のせい』『申し訳ない』との考えが、クライエントを苦しめて、不安の種を作り続けることも多くあります。

 

 『あなたの友達、あなたの伴侶、あなたの子どもが社会人になったときに、同じような状況に巻き込まれたことを想像してみてください。一所懸命頑張ってみるものの、頭が疲れ果てて、目的を果たせなくなり、そして仕事を休むことになったとしましょう。もし、その人があなたに、「こんな情けない人でごめんなさい」と謝ってきたら、あなたは「そうよ、あなたのせいよ、あなたが頑張らないからこうなったのよ」と言いますか?どんなことをその人に言いますか?』 

 

 ほとんどのクライエントはここで、『そんなことは言わない、その人の責任ではない、その人の状況が悪かっただけ、その人をおいつめていただけ、その人はずっと頑張ってきていたし、悪くはない。』こんなふうに話されます。

 しかし、それが自分のことになると、『自分に責任がある。自分のせいだ。もっと頑張らないといけないのに、情けない』にすり替わってしまうのです。同じ条件なのに、その当事者がかわるだけで、『責任がある』『責任がない』全く違う考え方になるのです。どちらの考えが正しいのでしょうか?

 

 この矛盾に気づいてもらうことが大切です。『自分のせい』が生まれる仕組みは、【うつ病とは?】で、説明しました。こんな目にあいたくない、そんな体験をした人は、その体験を心の中で回避するため、この考えを持つようになります。

 その体験そのものへの脅威が減ってきて、初めてこの考えを持たずにふりかえることができるようになるはずです。まだ、この時期は、この矛盾に気づいてもらうことだけでも十分です。

 そして、自分のせいだなと思うたびに、『ちょっと待てよ、これ自分の友達が(パートナーが、子供が…)そう話してきたら、自分はその人のせいだと思うかな?』こう考えてもらうようにしてくださいと、伝えてみます。

 

【回復と治療の終了】

脳が十分休息を取れて行くと、不安焦燥は回復し、意欲が回復し、最終的には体力が回復していくことで、それまですぐ疲れてしまっていたようなことでも徐々にこなせるようになっていきます。

仕事、家事、学業と、その人の社会性が回復し、順調にこなせるようになっていったあとは、治療終結に向かっていきます。

 

 もし薬の治療(抗うつ剤をうつ病治療ではよく使います)をしている方でしたら、元の生活に慣れてきたところで、薬は徐々に減って薬を飲まないでよいまでになります。

 

 うつ病の原因であったり、その人が置かれている状況が安全かどうかによって、どのくらい治療が続くかは個人差がありますが、ストレスとなっている原因がなくなった状態であるならば、通常は復帰後数か月で薬の治療は終わりとなって、何がうつ病を引き起こしていたか、どんな対処をしていればよかったかについて話し合いをして治療終了となります。

 

 治療開始から9カ月~12カ月の間に薬は終了になるのが一つの目安ですが、再発の場合は年単位となることもあります

 大抵治療終結の時には、もっと人に相談しておけばよかった、自分の限界を超えないよう無理をしないようにする等、いくつか気づきが生まれてきます。

 

なお、治った後、約5割の人に再発が起こるといわれていますが、再発が起こる仕組みや、治療については、次のページで説明します。

 

 

(*)視野が狭まるのも、危機に対しての体の安全を探索するための行動の一つです。

 草食動物が敵に気づいたとき、それまでいろいろ感じていた周りの感覚は一変して、敵にだけ全神経を集中するでしょう。そして、今この敵は、腹をすかして獲物を襲おうとしているのか、それとも満腹でただ、そこで寝ていようとしているだけなのか。全集中してそれを峻別します。

 つまり、危険を感じると人は、一点に意識が集約する、そのほうが安全に過ごせる本能的な仕組みです。

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