パニック症の克服 薬物療法
(3)パニック症の克服 ②
【パニック症の薬物療法】
薬物療法が、普及するにしたがって、パニック症にも薬物療法を行う事が多くなってきていますが、効果の面でパニック症の治療で、暴露療法に代わる治療(特に薬物療法)というのは無いことを理解する必要があります。
薬物療法を使うときには、暴露療法をすることが、不安で始められない、また早めに安全にいろいろ出来ることを取り戻すことで、その後回避せずに様々なチャレンジを出来るようになるというときに限って薬物療法を選択することになります。
あくまでも治療の中心は、不安で避け続けていたことを避けないでチャレンジ出来て、安全にできる感覚を取り戻すことです。安易な薬物療法は、不安に耐える力を奪ってしまうし、ちょっとした不安で薬を使いたいとなることが繰り返され、不安に対しての強いこだわりを生むことにもなります。
この不安への囚われが、パニック症の最も問題となる中心的な症状ですので、薬物療法によってかえって、それを悪化させてしまい、結局治らず、治療が長期化することにもなりえます。
ただいくつかの薬は、不安への囚われ自身を減らす効果があるため、そういった薬を併用しながら心理治療をする場合もあります。
その代表的な薬は、SSRIと呼ばれる、90年代以降主流となっている抗うつ剤の仲間の薬です。SSRIはセロトニンという物質を体の中で増やす働きがありますが、それによって、強い恐怖のシグナルをトーンダウンさせて、不安への囚われ自身を軽減します。
うつ病の治療薬として開発されましたが、不安症、パニック症、また強迫症などでもよくつかわれる薬となっています。
以前一般的に処方されていた、安定剤(ベンゾジアゼピン系安定剤)は、不安症状の緩和を急速にしますので、しばしばこの薬が、パニック症に処方されることがありましたが、上記の理由から今は基本的に使用しないことが治療のガイドラインで勧められています。
このタイプの薬を使うのは、例えば、年に数回しかない飛行機に乗るときに使う、年に数回しかない大きな会合に参加する際に使う等、飲む場面が限られていて、薬さえ飲めば、避けずにそのイベントへのチャレンジができる場合などに限られます。
そのことを不安から避け続けるよりは、薬を使ってでも、そのチャレンジができるほうが治療的な効果があると考えるからです。
【安定剤の問題点・依存症】
ただ、このタイプの安定剤は依存性が高いことがわかっています。依存性があるという事は、薬が身体から抜けて来た時に禁断症状を起こすという事です。
安定剤の禁断症状は、その効果の反対になります。安定剤の効果は次の四つです。
①不安を減らす ②眠くなる ③体の緊張がゆるむ ④てんかん発作を抑える。
ですので、この反対が起こります。強い不安が出てきて、眠れなくなり、体が緊張して、状況によってはけいれん発作を起こしもします。また、依存性は、その薬の効果が早く、かつ体から急速に抜けていくタイプの薬でよく起こります。
デパス(エチゾラム)、ソラナックス(アルプラゾラム)、リーゼ(クロチアゼパム)などは、このタイプの薬の代表的なものです。
常用量を毎日続けるだけでも、依存は起こります。そして、依存が形成されると、薬が減ってくるタイミングで、不安が繰り返し起きてきます。その際薬を飲めば不安は減りますが、そもそも、その不安は本人の病状にあるものではなく、禁断症状で起きてくる不安症状ですので、薬を飲まなければ起こらなかったものです。
ただ、パニック症の不安なのか、禁断症状による不安なのかは本人には区別できないため、ずっと安定剤を飲み続けることを余儀なくされることが起きていきます。
海外では、80年代に、このタイプの薬の乱用が社会問題となり、結果的にこのタイプの薬は海外では使わなくなっています(国内に持ち込むことを禁止している場合もあります)が、日本では規制が緩く、薬物依存について理解しないまま医師が処方出している場合も多くあるため、日本の精神科医療の問題の一つとなってもいます。
